2025.10.04 2025.09.29コラム
オープンスペースとはどんな働き方を生む?導入メリットとデメリットを解説

目次
働き方の多様化が進む中で、オフィスにおける「オープンスペース」の存在が再注目されています。ただ自由に使える場所というだけでなく、生産性やコミュニケーションの質にまで影響を及ぼすこの空間は、設計次第で働き方そのものを変える力を持っています。本記事では、オープンスペースがもたらす具体的なメリット・デメリットを明確にし、導入を成功に導くための視点を整理します。
オープンスペースとは何か、その基本的な役割

個室との違いから見る空間の特徴
オープンスペースとは、壁やパーティションで明確に仕切られていない開放的な空間のことを指します。従来のオフィスのように固定席や個室が中心ではなく、自由に使えるテーブルやソファ、カウンターなどを配置した柔軟なレイアウトが特徴です。こうした空間は、仕事に限らず、雑談や休憩、軽い打ち合わせなどにも活用されます。
この空間の最大の特徴は、「誰が」「いつ」「どのように」使うかがあらかじめ固定されていないことにあります。使い方が制限されていないからこそ、社内に新しい動きや関係性が生まれやすくなります。一方で、すべての従業員にとって快適とは限らないため、導入にあたっては慎重な設計と運用が求められます。
背景にある働き方の変化
オープンスペースが注目される背景には、働き方を取り巻く環境の変化があります。リモートワークやフリーアドレスといった新しい働き方が一般化する中で、オフィスの役割自体が再定義されつつあります。ただ業務を行うだけの場ではなく、人と人がつながり、創造性やチーム力を高めるための場としての価値が求められるようになりました。
このような中で、オープンスペースは「目的に応じて選べる場所」としての役割を持つようになっています。たとえば、集中作業をするための個室や静かなエリアと並行して、雑談や発想のきっかけとなるようなスペースがあることで、社員が状況に応じて最適な場所を選ぶことができます。こうした構造が、柔軟な働き方を支える要素の一つとして重要視されています。
加えて、企業文化の可視化という観点でもオープンスペースは機能します。閉鎖的な空間よりも、開かれた場所の方が組織としての透明性や風通しのよさを象徴しやすく、外部の来訪者に対してもポジティブな印象を与えることがあります。
また、設備面においても近年は選択肢が増えており、従業員が快適に過ごせる家具や照明、音響といったツールも国内で多く展開されています。これらを組み合わせることで、ただの“空いたスペース”ではなく、目的を持った有効な環境として整備することが可能になります。
働き方に与えるポジティブな影響
気軽なコミュニケーションの促進
オープンスペースは、偶然の出会いや気軽な声かけを生み出しやすい設計となっています。固定席のオフィスでは、部署が違えば話す機会も限られてしまうことがあります。しかし、自由に使える共有空間があることで、立場や部門に関係なく会話が始まる可能性が広がります。
このような偶発的な接点は、業務以外の交流を通じて相互理解を深めたり、業務のヒントを得たりするきっかけにもなります。特に、社歴や役職の違いによる壁が感じられにくくなるため、心理的なハードルを下げたコミュニケーションの土壌が育ちやすくなります。
会議室で構える必要のない気軽な空間があることで、アイデアの共有もスムーズになり、仕事のスピードや質にも影響を与える場合があります。
アイデアが生まれる「偶発的な会話」
オープンスペースの特長として注目されているのが、「目的のない会話」が価値を生む可能性がある点です。意図して打ち合わせをしなくても、同じ空間で何気ない話をしていた中から、思いもよらないアイデアが浮かぶことがあります。
これは、従来の会議や資料のやりとりとは異なり、あくまでも自然発生的な発想のプロセスです。アイデアを求める場を「設ける」のではなく、「生まれる環境を用意する」という考え方が、オープンスペースにおける重要な発想のひとつです。
そのためには、誰もが気軽に立ち寄れる雰囲気や、発言しやすいレイアウト、視線がぶつかりすぎない家具配置などが求められます。加えて、会話が否定されない文化の醸成も同時に必要とされます。
集中とリフレッシュの切り替えがしやすい
働くうえで、集中力を高める時間と、いったん頭を切り替える時間の両方が必要です。オープンスペースは、作業に疲れた時の一時的な「逃げ場」として機能します。適度に人の気配がありつつも、圧迫感の少ない場所で過ごすことで、気持ちのリセットがしやすくなります。
集中とリラックスを自分のペースで切り替えられることは、業務の効率を損なわずに継続できる要因のひとつです。また、緊張を緩める場があることで、ストレスの蓄積を防ぎやすくなる側面もあります。
空間によって気持ちの状態を変えられるという特性は、長時間オフィスで過ごす人にとって重要な意味を持ちます。オープンスペースは、ただの休憩所ではなく、業務を継続させるためのリズムを整える場所として位置づけることができます。
導入で期待できる実務的な効果

オフィスコストの最適化
オープンスペースの導入は、限られたオフィス面積をより有効に使う手段の一つです。固定席を減らし、共有スペースを設けることで、席の稼働率を上げる運用が可能になります。結果として、オフィス全体のレイアウト効率が向上し、余分なスペースや設備の見直しが進むケースもあります。
必要最低限の固定席と、柔軟に使える空間を組み合わせることで、物理的な制約に対する対応力も高まります。これにより、オフィスの拡張や移転といったコストを抑える判断がしやすくなり、予算配分に余裕が生まれる可能性があります。
また、印刷機器・什器・電源設備といった共用機能を集中させることで、運用面の効率化も期待されます。スペースを減らすことそのものが目的ではなく、コストのかけ方を最適化する視点が重要です。
企業イメージの刷新
オフィスの空間設計は、外部から見た企業の印象を大きく左右します。来訪者が感じる空気感や雰囲気は、社内の文化や働き方を象徴する要素として機能することがあります。オープンスペースが整備された職場は、開放的で柔軟な働き方を受け入れているというメッセージにもなりえます。
特に、エントランスに隣接するラウンジエリアや、多目的に使えるミーティングスペースは、社外との接点を持つ場面で効果を発揮します。機能性とデザイン性を両立した空間づくりが行われていれば、企業としての先進性や誠実さを視覚的に伝える要素となります。
このように、空間そのものが無言のコミュニケーションツールとして活用できるため、オープンスペースは単なる業務環境以上の役割を持ちます。採用活動や取引先との関係構築にも間接的な影響を与える可能性があるため、オフィスの刷新を機に取り入れる企業も増えています。
採用や定着率への波及効果
働く場所の快適さや自由度は、人材の定着や採用にも関係しています。固定されたデスクだけでなく、気分に応じて選べる空間があることで、働く側の満足度は高まりやすくなります。これは、業務の効率とは異なる、感情的な側面に影響を与えるポイントです。
特に、若い世代や新たに転職してきた社員にとっては、オフィス環境そのものが企業選びの要素になることもあります。物理的な空間が“働きやすさ”を体現している場合、職場への帰属意識やモチベーションにもプラスに作用します。
加えて、長く働き続けるためには、変化に対応できる柔軟性が求められます。働き方の変化に合わせてスペースが変わる仕組みが用意されていれば、従業員がその変化に前向きに向き合いやすくなります。オープンスペースは、こうした柔軟性を象徴する空間としても機能します。
オープンスペース導入の課題
集中を妨げる要素が存在する
オープンスペースは開放的な反面、集中を要する業務との相性に課題が生じることがあります。人の出入りが頻繁な環境では、視覚的な刺激や周囲の雑音が集中を妨げる要因となりやすいです。周囲の会話が耳に入るだけで、注意が分散されてしまうこともあります。
特に、細かい作業や思考を要する業務を担当している人にとっては、静かな環境が確保されていない状態はストレスにつながる可能性があります。音に対する感じ方は人それぞれ異なるため、全員にとって最適な空間を設けることが難しいという現実もあります。
そのため、オープンスペースの導入時には、集中が必要な業務を想定したスペース設計を併用することが欠かせません。視線を遮る工夫や、適度に仕切られた作業スペースとのバランスを取る必要があります。
感染症対策との両立
広く開かれた空間は、密閉された個室に比べて風通しが良いという利点がありますが、一方で人が集まりやすい場所でもあるため、感染症のリスク管理が重要になります。特に、共有テーブルや椅子などの共用設備は、接触機会が多くなりやすい場所です。
このような状況に対応するには、定期的な消毒や清掃体制の整備に加えて、従業員自身が使い方を意識する必要があります。マスクの着用や手指の消毒といった基本的な対策に加え、利用人数や時間帯を制限するなどのルールづくりも求められます。
また、換気のしやすさや空気の流れも設計上の配慮事項となります。空調機器の配置や窓の開閉が可能な位置取りなど、設備面での工夫が不可欠です。感染症対策と快適性を両立させるためには、見えない部分にも配慮した整備が必要となります。
利用ルールの曖昧さが混乱を生む
自由に使える空間であるからこそ、一定のルールがなければ利用者ごとの認識にばらつきが出てしまいます。たとえば、「どの程度の声量なら許容されるのか」「何時間まで使ってよいのか」「飲食は許されるのか」といったルールが不明確なままだと、利用者間で不満が生じることがあります。
このような状況を防ぐには、最低限の利用ルールをあらかじめ設定し、周知することが重要です。利用目的を明確にするだけでなく、具体的な利用方法を掲示することで、誰でも安心して使える空間が維持されやすくなります。
また、ルールを一方的に押し付けるのではなく、利用者の声を取り入れながら柔軟に調整していく姿勢も必要です。運用を開始してから見えてくる課題に対して、改善を繰り返す体制があることが、継続的な活用につながります。
運用を成功させるための設計ポイント
ゾーニングによる空間の使い分け
オープンスペースは「誰でも自由に使える場」として設けられることが多いですが、実際には用途の異なる利用が混在するため、明確なゾーニングが不可欠です。たとえば、会話が前提となる打ち合わせエリアと、集中して業務に取り組むための静かなエリアを同じ場所に設けると、利用者同士のストレスにつながるおそれがあります。
そこで効果的なのが、「話す」「こもる」「くつろぐ」といった目的に応じた空間の分離です。エリアごとに照明や家具の種類、床材の色を変えることで、視覚的に用途の違いを示す工夫も有効です。音の広がり方にも配慮しながら、利用者が無意識に適切な場所を選べる構造を目指すことが求められます。
このような設計により、同じ空間でも複数の役割を持たせることができ、利用効率と快適性を両立しやすくなります。
家具・間仕切りの戦略的配置
オープンスペースを実用的な空間にするには、家具の配置と間仕切りの活用が大きなカギとなります。壁を設けずに視線や音の拡散を抑えるためには、家具自体を空間の“仕切り”として機能させる方法が効果的です。たとえば、背の高い書棚やパネル付きのソファなどを活用することで、圧迫感を与えずに視線を遮ることができます。
また、観葉植物を使った自然な仕切りも人気があります。見た目の柔らかさを保ちつつ、空間をゆるやかに分けることで、心地よさと集中のしやすさのバランスを整えることができます。設備の面だけでなく、空間が与える心理的な影響にも着目した設計が必要です。
家具選定では、長時間座っても疲れにくいイスや、持ち運びがしやすいテーブルなど、利便性と快適性を両立できるものを選ぶことが望まれます。動線を遮らない配置にすることで、全体の使いやすさも向上します。
従業員の声を設計に取り入れる
オープンスペースを設ける際に最も見落とされがちな点のひとつが、「実際に使う人の意見を反映すること」です。空間を整える側が一方的に決めた設計では、利用者にとって使いにくい場となってしまう可能性があります。
従業員への事前アンケートやヒアリングを実施することで、求められている機能や懸念点を把握しやすくなります。たとえば、「電話の声が気になる」「ひとりで使える席が少ない」といった声は、設計段階で改善可能な課題です。これらの意見を具体的なレイアウトに反映させることで、利用満足度の高い空間につながります。
また、設計後も定期的なフィードバックの仕組みを用意することで、運用フェーズに入ってからの調整もしやすくなります。設計と運用は一度きりで完結するものではなく、利用状況に応じて柔軟に見直していく姿勢が求められます。
失敗しないための運用ルールの考え方
目的を明文化して共有する
オープンスペースを有効に活用するには、まず「なぜこの空間を設けたのか」という目的を明文化することが必要です。空間のねらいが不明確なままでは、使い方に個人差が生まれ、混乱を招く可能性があります。
たとえば、業務中のリフレッシュや雑談を促進するためのスペースなのか、ちょっとした打ち合わせや一人での作業に使ってほしいのか、といった目的をはっきりさせておくことで、利用者の行動にも一貫性が生まれます。
その上で、目的に沿った使い方のルールを、社内で共有することが重要です。掲示物や社内イントラネット、朝礼などを活用して継続的に伝えることで、利用方法に対する共通理解が深まります。
ルールと柔軟性のバランスが鍵
運用ルールは明確であるべきですが、厳しすぎるルールは逆効果になるおそれがあります。オープンスペースの魅力の一つは自由度にあるため、細かすぎる規定はその価値を損なう可能性があります。
たとえば、時間制限を設定する場合でも、厳格に管理するのではなく「混雑時には譲り合う」といった柔軟な運用方針が現実的です。音量や私語に関する注意点も、強制するのではなく「配慮する」といった言い回しの方が受け入れられやすくなります。
また、部門や立場によって使い方のニーズが異なることを考慮し、一律のルールではなく「ガイドライン」として示すことで、全体のバランスを取りやすくなります。運用の硬直化を避け、実情に合わせた微調整ができることが、継続的な活用の鍵となります。
ツール導入や予約制の活用
オープンスペースの利用が集中しやすい場合や、特定の目的での使用を想定している場合は、社内向けの予約システムを導入することで混乱を防ぎやすくなります。特に、複数人でのミーティングやプレゼンテーション用途として使うことが多い場合には、時間帯の管理が重要になります。
近年では、国内向けに展開されているオフィス運用支援ツールが複数存在しており、予約機能や利用状況の可視化といった機能が備えられています。これらを活用することで、利用者間のトラブル防止や管理工数の削減が期待できます。
また、利用状況を定期的にモニタリングすることで、実際にルールが機能しているかどうかを把握しやすくなります。ルールは設けて終わりではなく、実態に合わせて見直しを行う姿勢が求められます。
まとめ|オープンスペースは戦略的に設計すべき空間
「開放性」が働き方を変える力になる
オープンスペースは単なる共有スペースではなく、組織の働き方そのものを支える重要な要素として機能します。自由に使える開放的な空間があることで、従業員同士のコミュニケーションが活発になり、創造的なアイデアが自然と生まれる環境が整います。こうした「偶発性のある出会い」や「感情的なリセットのしやすさ」は、個々の業務効率だけでなく、組織全体の活性化にも寄与します。
また、使い方を選べる柔軟性が働く人の心理的な安心感につながり、自発的な行動を促す土壌にもなります。快適さと自由さのバランスが取れた空間は、働き方の変化にも柔軟に対応できる仕組みとして評価されつつあります。
目的と課題を明確にしたうえでの導入が重要
一方で、オープンスペースを単に設置するだけでは効果が出にくく、運用ルールの不備や目的の曖昧さが逆にストレスを生む要因にもなりかねません。設計の段階から利用目的を具体化し、従業員の声を反映させることが、効果的な運用への第一歩です。
さらに、導入後も状況に応じた見直しや調整が求められるため、設計と運用を一体で考える姿勢が欠かせません。設備の工夫やツールの活用にとどまらず、社内文化としてどのように位置づけていくかが問われる場面も出てきます。
オープンスペースは、場そのものに意味を持たせる設計が必要です。自由であることと、戦略的であることは両立します。働き方の多様性に対応したオフィスづくりの一環として、計画的かつ丁寧な導入が求められます。
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