2025.05.21 2025.05.26コラム
バイオフィリックデザインとは?オフィスに取り入れるメリットとポイント

目次
近年注目を集めている「バイオフィリックデザイン」は、自然とのつながりを空間に取り入れることで、人の心身にポジティブな影響をもたらす設計手法です。本記事では、その中でもオフィス空間への導入に焦点を当て、得られる具体的な効果や導入時の実践ポイントをわかりやすく解説します。
バイオフィリックデザインとは何か

人と自然の本能的なつながり
バイオフィリックデザインは、「人は自然とのつながりを求める本能を持っている」という考え方を前提にした空間設計の手法です。この考え方は心理学や環境工学の分野でも注目されており、都市化が進む現代において、室内環境に自然を再構築する動きとして発展してきました。自然環境に囲まれた状況では、心が安定しやすく、集中力や創造性が高まるといった報告も存在しています。こうした本能的な反応を設計に応用することで、空間に求められる機能以上の価値を引き出すことが可能です。
日常的に緑や光、水、風といった自然の要素に触れる機会が限られている都市部の働く環境では、このデザイン手法の価値がより顕著に現れます。空間に取り込まれた自然要素が、視覚や触覚、嗅覚などの感覚を刺激し、心身に穏やかな変化をもたらすことで、快適性や生産性の向上に寄与することが期待されています。
建築・空間設計への応用
このデザインは、単に植物を置くだけの手法ではありません。建物の構造、素材、照明、換気など、空間を構成する要素全体に自然の要素を織り込んでいくアプローチが求められます。たとえば、木材や石といった自然素材の使用、視界に広がる緑の景色、間接光や日光の活用、水の流れを感じる音の設計など、五感に働きかける設計が重視されます。これにより、単なる機能性の高い空間ではなく、感覚的な満足度が高い環境を実現することができます。
また、バイオフィリックデザインは働く人にとっての環境改善だけでなく、訪れる人に対する企業イメージの形成にも影響を与えます。受付や会議室、休憩スペースなどの場面で適切に取り入れられた自然要素は、企業が大切にしている価値観や姿勢を空間を通じて伝える手段にもなります。空間が語るストーリーは、言葉以上に強い印象を残すことがあります。
こうした設計手法は、専門的な知見に基づいて進める必要があるため、導入時には設計士や空間デザイナーなどと協働することが一般的です。国内でも、オフィス設計に強みを持つ設計事務所や、植物を使った空間演出に特化したサービスなど、導入支援を行う企業が増えつつあります。
なぜ今、オフィスにバイオフィリックデザインが注目されているのか
働き方の多様化とウェルビーイングの重要性
働き方の選択肢が広がる中で、オフィス環境そのものの役割も再定義されつつあります。以前は業務をこなす場所としての機能が重視されていましたが、現在では「働きやすさ」や「心身の健康」を重視した空間づくりが求められています。こうした背景から、「ウェルビーイング」という概念が広がり、オフィス設計にも変化が生じています。
ウェルビーイングは単に身体の健康だけを指すのではなく、精神面や社会的なつながりも含めた総合的な充足感を意味します。バイオフィリックデザインは、この考えに合致した設計手法の一つです。自然とのつながりを空間に取り入れることで、感情の安定やストレス軽減といった効果が期待され、従業員のコンディションを整える要素として注目されています。
テレワークなどの柔軟な働き方が浸透した今、わざわざ出勤する理由として「快適な職場環境」が求められるようになっています。オフィスの居心地や心理的安全性を高める空間設計が重要視される中で、バイオフィリックデザインの持つ価値が再評価されているのです。
従業員の集中力・満足度への影響
職場における生産性や創造性は、業務環境に大きく左右されます。光が差し込み、植物に囲まれた空間では、感覚的な安心感が得られるだけでなく、集中力が高まりやすくなるといった効果が期待されます。感情が落ち着いた状態であれば、業務の効率性だけでなく、発想力や柔軟な思考にも良い影響が生まれやすくなります。
また、職場への満足度は企業への帰属意識にもつながります。居心地の良い空間は、単に「快適」であるという感覚にとどまらず、社員にとっての「ここで働きたい」という意欲を育てる土壌になります。バイオフィリックデザインを通じてオフィスに自然なやすらぎを取り入れることは、従業員のエンゲージメント向上にも寄与すると言えるでしょう。
こうした視点は、オフィス設計を「コスト」ではなく「投資」として捉える企業が増えてきている要因の一つです。働く人にとって意味のある空間づくりは、企業の競争力を高める重要な戦略と見なされ始めています。
オフィスに自然を取り入れる主な手法

植物や緑の配置による空間演出
オフィスにおけるバイオフィリックデザインの代表的な要素のひとつが、植物の導入です。緑のある空間は視覚的にリラックス感を生み、空間の印象を柔らかくします。観葉植物や壁面緑化を用いることで、閉塞感のあるオフィスでも自然を感じられるように設計することができます。
植物は単に装飾として置かれるのではなく、空間全体のバランスを考慮して配置されることが重要です。視線の先に緑が入るような動線設計や、座席ごとに異なる高さの植物を用いることで、自然な奥行きと広がりを持たせることができます。また、手入れのしやすさや光の届き方を踏まえて植物の種類を選定することも設計上のポイントとなります。
自然光や風の活用
自然光は、人の体内リズムを整える上で重要な役割を果たします。特に、窓からの光を効果的に取り入れる設計は、オフィス全体の明るさと快適性に影響します。自然光の取り込みには、ブラインドや光拡散パネルを活用することで、直射日光の強さを調整しながら柔らかい光を広げる工夫が必要です。
また、自然の風を感じられるような設計も、室内環境の質を向上させます。風通しの良いレイアウトや、通気口の位置を工夫することで、室内にこもりがちな空気を循環させることができます。換気設備と自然の風の流れをうまく組み合わせることで、空気の質と感覚的な快適さを両立できます。
こうした自然光や風を活かした設計は、エネルギー消費の抑制にもつながるため、環境負荷の軽減を図る観点からも評価されています。
素材や音・香りによる五感刺激
バイオフィリックデザインは、視覚だけでなく、聴覚や嗅覚、触覚といった五感に訴える空間づくりも重視します。たとえば、木材や石材など自然素材を使った内装は、肌触りや温度感に落ち着きを与えます。これにより、無機質になりがちなオフィス空間に温もりが加わり、過ごしやすい環境が実現します。
さらに、水の流れる音や鳥のさえずりなど、自然の音を室内に取り入れることも効果的です。音響設備を活用してこうした音を背景に設置することで、空間全体に心地よいリズムが生まれます。ただし、音の選定や音量の調整は慎重に行う必要があります。
香りについても、植物本来の自然な香りや、木の香りを生かすことで、ストレスの軽減や気分のリフレッシュにつながります。合成香料ではなく、天然素材を用いた香りの導入が好まれる傾向にあり、空間に対する印象をより自然なものにします。
導入時に押さえておくべき設計ポイント
目的と空間特性に合わせたデザイン設計
バイオフィリックデザインの導入にあたっては、空間全体の目的と特性を理解したうえで設計を行う必要があります。ただ植物を設置するだけでは、本来の効果を十分に引き出すことはできません。業務内容や滞在時間、利用する人の属性などを踏まえて、どのような自然要素をどこにどの程度取り入れるかを具体的に検討することが求められます。
たとえば、集中力を必要とする作業エリアには、視線が抜けるようなグリーンの配置や、やわらかな自然光を取り入れる工夫が有効です。一方で、リフレッシュスペースでは、水音や香りなど多感覚に働きかける演出を加えることで、より効果的に自然とのつながりを体感できます。このように、空間ごとに求められる機能や雰囲気を整理した上で、デザインの方向性を決めていくことが重要です。
既存設備とのバランス
既存のオフィス設備やレイアウトとの整合性も、導入を成功させる上で欠かせない視点です。新たに自然要素を加える際、それが業務フローや動線の妨げにならないよう、適切な配置やサイズを検討する必要があります。視界や通路を遮らない設計、光の取り込みを損なわない植物選びなど、細かな配慮が空間全体のバランスを保ちます。
また、導入後も継続的に効果を維持するためには、照明や空調との調和も重要です。たとえば、日照量の変化や換気の流れを考慮した素材選定や配置は、自然との調和をより安定的に生み出します。自然光と人工照明のバランスを調整することで、昼夜や季節の変化にも柔軟に対応できる設計が可能になります。
空間設計は単なるデザイン要素の配置ではなく、業務環境と調和した「使える空間」であることが求められます。自然を感じるだけでなく、業務効率や動線にも配慮された構成が理想とされています。
管理・メンテナンスの視点
導入後の維持管理も見落としてはならない要素のひとつです。植物や素材は時間の経過とともに変化するため、定期的なメンテナンスを前提とした設計が必要です。特に、観葉植物などは設置場所の温度や湿度、光の強さによって生育に差が出るため、管理の手間を最小限に抑えられる種類を選ぶことが現実的です。
また、水やりや清掃の導線も考慮しておくことで、オフィス業務との両立がしやすくなります。社内で対応する場合は、担当者の負担が偏らないよう配慮する必要がありますし、外部の専門業者に依頼する場合は、導入前から契約や費用について検討しておくことが望ましいです。
メンテナンスを含めた設計は、継続的なバイオフィリックデザインの価値を守るための鍵となります。見た目の美しさだけでなく、実際の運用負荷までを見越して設計することが、長期的な成功につながります。
バイオフィリックデザインの導入事例
導入背景と目的
バイオフィリックデザインを取り入れる企業の多くは、オフィス環境の改善と働く人の満足度向上を主な目的としています。特に、業務効率や社員のモチベーションに課題を感じている企業では、単なる内装の刷新ではなく、「空間が与える心理的影響」に着目した施策として注目が集まっています。
ある国内の中堅企業では、組織内のコミュニケーション活性化を図るためにリフレッシュスペースへ自然要素を導入しました。目的は、従業員が業務中に一息つける空間を整備することで、ストレスの緩和と創造的な発想を促す環境を整えることにありました。このように、バイオフィリックデザインは業務空間の課題解決を図る手段として導入されるケースが増えています。
また、採用活動やブランディング強化の一環としてバイオフィリックデザインを選択する企業もあります。訪問者や求職者に対し、「人にやさしい企業」であるという印象を空間を通じて伝えることができるためです。これにより、企業の価値観を視覚的に表現し、外部との信頼関係を構築する目的でも活用されています。
効果として得られた変化
導入後の変化としてよく挙げられるのは、職場の雰囲気が柔らかくなったという感覚的な反応です。空間に自然の要素が加わることで、無機質だったオフィスに温もりが生まれ、来訪者や社員の第一印象が良くなったとする声が聞かれます。
また、業務中の集中力や休憩時のリラックス効果に変化を感じる人も多いようです。特に、視界に緑が入ることで気持ちが落ち着くという声や、自然光の入り方が変わったことで空間全体が明るく感じられるという報告があります。音や香りを活用している場合には、感覚的なリセット効果が高まったと実感されることもあります。
さらに、日常的な業務において社員同士の会話が増えたという変化を実感するケースもあります。リフレッシュスペースに自然を取り入れたことで、自然と人が集まりやすくなり、偶発的なコミュニケーションのきっかけが生まれやすくなったという報告が寄せられています。
導入から一定期間を経た後も、維持管理を続けている企業が多く、その理由として「空間に愛着が湧いた」という感覚的な理由が挙げられることもあります。単なるデザインではなく、働く環境そのものを変える手法として定着しつつあることがうかがえます。
よくある誤解と注意点
「植物を置けばよい」は誤解
バイオフィリックデザインという言葉を耳にしたとき、「植物をいくつか置けばそれで完成」と考える方も少なくありません。しかし、これは代表的な誤解のひとつです。この設計手法は、空間に自然の要素を加えるだけでなく、利用者の感覚や行動にどう影響を与えるかまでを見据えたアプローチが必要です。
単に観葉植物を並べただけでは、業務環境の改善にはつながりません。空間全体の構成や光の取り込み方、音の使い方などを一体として設計することが求められます。また、自然要素の配置には意味があり、視線の動きや滞在時間など、人の行動を考慮した配置でなければ、本来の効果を十分に発揮することはできません。
見た目だけでなく“体感”が重要
バイオフィリックデザインの本質は、自然を「感じる」空間を作ることにあります。つまり、視覚に訴える美しさだけでなく、音や香り、温度や触覚といった感覚にも配慮が求められます。この視点が抜け落ちてしまうと、見た目は自然風でも実際の居心地に違和感が残る空間になってしまう可能性があります。
たとえば、木材の壁面を採用しても、人工素材による模倣では感覚的な効果が薄れることがあります。また、照明を自然光のように調整したつもりでも、時間帯によっては眩しすぎたり暗すぎたりする場合もあります。こうした違和感は無意識のストレスを生む要因になるため、細部まで「感じる設計」を意識することが不可欠です。
費用対効果の捉え方
バイオフィリックデザインは、導入にあたって一定のコストがかかることも事実です。このため、「費用に見合う効果があるのか」といった声が上がることもあります。ただし、この手法は短期的な利益だけを目的とするものではありません。働く人の快適性や心理的安全性、生産性といった“定量化しにくい効果”にも着目すべきです。
初期投資だけで効果を判断してしまうと、デザインの本来の価値を見落とす可能性があります。継続的な利用とメンテナンスを前提に、長期的な視点で空間価値をどう高めていくかという観点から導入を検討することが、より実用的な判断へとつながります。
まとめ:バイオフィリックデザインがもたらす可能性
働く環境に変革をもたらす視点
バイオフィリックデザインは、ただ空間を美しく整える手法ではありません。働く人の感覚や行動に寄り添い、心理的な安心感と身体的な快適さを両立させることで、業務環境に根本的な変革をもたらす可能性を秘めています。自然とのつながりを意識的に取り込むことで、空間そのものが持つ力を最大限に引き出すことができます。
企業にとって、職場は生産の場であると同時に、社員の価値観や文化を育む場所でもあります。バイオフィリックデザインの導入は、その空間に新たな意味を与える手段となり、社内外に向けた明確なメッセージにもなり得ます。人を大切にする姿勢や、持続可能性への取り組みは、デザインを通じて強く伝わります。
導入の第一歩として検討したいこと
この設計手法に取り組む際には、まず自社のオフィスにどのような変化をもたらしたいのかを明確にすることが重要です。単なる装飾や流行として捉えるのではなく、働く人にとって意味のある変化とは何かを見極める視点が求められます。
バイオフィリックデザインは、空間の使い方や社員の在り方を見つめ直すきっかけにもなります。導入の規模や予算にかかわらず、小さな一歩から始めることができるという柔軟性も、この手法の魅力のひとつです。まずは身近な環境に自然の要素を取り入れるところから、働き方の質を高めるアプローチを検討してみてはいかがでしょうか。
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