2025.12.03 2025.11.27コラム
シェアオフィスのレイアウトで失敗しないために知っておくべき4つの設計ポイント

目次
働きやすいオフィスづくりを目指してシェアオフィスを導入しても、レイアウト次第で作業効率やチームの連携に大きな差が生じることがあります。利便性やデザイン性だけに注目していると、運用開始後に「思っていたのと違う」と感じる場面も少なくありません。この記事では、現場で起こりがちな失敗例を踏まえながら、レイアウト設計で重視すべき4つの具体的な視点について解説していきます。
シェアオフィスのレイアウトが働き方に与える影響

レイアウトが生産性や心理に及ぼす効果
シェアオフィスは、単にデスクや椅子が並んでいる空間ではありません。そこで働く人の行動や心理に影響を与える「設計された環境」としての側面があります。空間構成が整っているかどうかによって、集中力の持続、業務効率、ストレスの軽減といった点で差が生じやすくなります。視界に人の動きが多く入るレイアウトでは、落ち着かない感覚が生まれやすく、逆に区切りや仕切りのある設計であれば、同じスペースでも集中しやすい空間に変わります。レイアウトは「使い方の意図」を内包しているため、何を目的としたスペースなのかを可視化する役割も果たします。
個人・チームで異なる理想の空間とは
個人で黙々と作業を進めたい人にとっては、他者との距離感が近すぎる構成では集中が妨げられがちです。一方、チームでの共同作業を重視する立場では、コミュニケーションの取りやすさが重要視されます。シェアオフィス内でこれらのニーズを同時に満たすためには、用途に応じた複数の空間タイプを準備しておく必要があります。執務エリア、ミーティングエリア、リフレッシュエリアといった役割の異なるエリアを明確に分け、それぞれの空間に適したレイアウトを採用することで、業務内容ごとの最適な働き方を支援できます。
利用者が増えるほど課題が顕在化しやすい理由
当初は使いやすかったと感じていたシェアオフィスでも、利用者が増えることで思わぬ課題が表面化するケースがあります。動線が混雑しやすくなったり、席の取り合いが生じたり、会話の音が気になる場面が増えたりと、利用環境が変化することで快適性が損なわれることがあります。これらの課題は、レイアウトの設計段階である程度予測可能です。最初から「人が増えたときにも対応できる柔軟な構成」を意識しておくことが、長期的に快適な空間運用を維持する鍵になります。可動式の家具やパーティションを活用するなど、レイアウトに可変性を持たせる工夫も効果的です。
失敗につながりやすいレイアウトパターン
用途と空間が一致していない
シェアオフィスにおけるレイアウトで失敗が起こる原因の一つが、「空間の使い方」と「実際のレイアウト」が一致していないことです。たとえば、静かに集中する作業が求められるエリアでありながら、共用の通話ブースやカジュアルな打ち合わせスペースが近くにあると、周囲の音や視線が業務に影響を与えてしまいます。これでは、本来意図していた用途が機能しなくなります。明確なゾーニングがないまま設計されているケースでは、利用者の行動が空間全体に拡散しやすくなり、集中や休息といった目的が曖昧になってしまう傾向があります。どのエリアにどんな役割を持たせるのかを最初に定義しておかないと、現場では混乱が生じやすくなります。
「おしゃれ重視」で実用性が損なわれている
インテリア性の高いデザインや、印象的なカラーコーディネートは、一見すると魅力的です。しかし、視認性の悪い素材や落ち着かない配色が多用されていると、日常の業務に支障が出ることがあります。たとえば、暗すぎる照明や視線を遮る装飾が多い環境では、作業効率が下がるばかりか、利用者の心理的負担も増えてしまいます。また、家具の配置が動線を妨げていると、席への移動や物の出し入れといった基本動作にストレスを感じやすくなります。見た目の印象を優先するあまり、機能面の設計が後回しになっている状態では、オフィスとしての基本的な使いやすさが担保されません。シェアオフィスに求められるのは「見た目」と「機能」の両立であり、どちらかに偏ると満足度の低下につながります。
プライバシーの配慮が不十分な構成
利用者が安心して働ける環境をつくるうえで、プライバシーへの配慮は欠かせません。特に、電話やオンライン会議を頻繁に行う業務では、周囲からの視線や音が気にならない空間が求められます。しかし、開放感を優先した設計では、パーソナルな空間が確保されにくく、業務中のやり取りが他人に聞かれてしまうリスクも高まります。また、周囲の会話が漏れ聞こえる状況では、集中が途切れやすくなります。小さなパーティションや背面の目隠しといった簡易な工夫であっても、心理的な境界線をつくることは可能です。プライバシーが軽視されるレイアウトでは、結果として利用者が他の作業エリアへ移動することになり、空間の使用効率も下がってしまいます。
設計ポイント1|業種と業務内容に沿ったゾーニング

静と動のエリアを区別する意義
シェアオフィスでは、さまざまな業種・職種の人が同じ空間を共有するため、空間全体を一律に設計してしまうと、使用目的に合わない場面が多くなります。たとえば、集中して資料作成を行う業務と、会話や打ち合わせを中心とした業務では、求められる環境が大きく異なります。そのため、設計の段階で「静」と「動」のエリアを明確に分けることが重要になります。静かなエリアには視線や音を遮る工夫を取り入れ、動きのあるエリアには広めの通路や可動式の家具を用いることで、相互に干渉しにくいレイアウトを実現できます。ゾーニングによって空間の役割が可視化され、利用者の行動も自然と整理されやすくなります。
営業職と事務職では求める空間が異なる
同じオフィスであっても、職種ごとに理想的な空間構成は変わってきます。営業職のように外部とのコミュニケーションが多い業務では、スムーズに出入りできる動線や、商談や打ち合わせがしやすいスペースが求められます。一方で、事務職や管理業務を担当する人にとっては、長時間のデスクワークに集中できる静かな環境が優先されます。全体のバランスを考慮せずにフロアを構成すると、特定の職種にとって使いにくい空間が生まれてしまうことがあります。特にシェアオフィスでは、利用者の業務内容をあらかじめ想定し、レイアウトに反映しておくことが空間設計の基盤になります。
クリエイティブ系には集中と発想を両立できる設計が必要
デザイン・編集・企画など、アイデア創出を重視する業務では、静けさだけでなく刺激や変化のある環境が求められることがあります。集中できるエリアと、思考を切り替えやすい空間の両方を設けることで、業務内容に合った働き方が実現しやすくなります。たとえば、ひとりで作業に没頭できるブースと、気軽に意見交換ができるカジュアルなスペースの両立は、こうした業種にとって有効です。また、壁面にホワイトボードを設置する、仕切りを可動式にするなど、柔軟に使い方を調整できる設計がクリエイティブな業務の支援につながります。業種に応じたゾーニングが、利用者の満足度と生産性の向上に寄与します。
設計ポイント2|コミュニケーションが生まれる動線設計
偶発的な交流を生む配置の工夫
シェアオフィスでは、あらかじめ意図された打ち合わせだけでなく、ちょっとした会話や偶然の出会いから情報交換が始まることがあります。こうした「偶発的な交流」は、新しいアイデアのきっかけや、業務のスピードアップにつながる場面も少なくありません。そのため、利用者同士が自然に視線を交わす場面や、軽い会話が生まれやすいレイアウトを意識することが重要になります。たとえば、廊下に沿ったカウンター席や、複数の動線が交わる位置にカジュアルなスペースを設けることで、無理なく人が集まりやすくなります。こうした設計があることで、業務の延長線上に交流が生まれやすくなり、オフィス全体の活気が増す効果も期待できます。
「話しやすさ」と「話しかけにくさ」のバランス
コミュニケーションを促す動線設計は、ただ人を集めるだけでは成立しません。話しやすい空間と、集中したい空間のバランスをとることが欠かせません。すべての座席が通路に面していたり、視線が交差する位置に配置されていると、利用者によっては常に気を張る状態になりやすく、作業の妨げとなってしまいます。一方で、完全に閉ざされた空間では、他者とのつながりを感じにくくなり、孤立した感覚を持つこともあります。そのため、動線を活かしながらも、距離感や視線の遮り方を工夫することが求められます。視界の先に他者の存在がうっすら見える程度のレベルであれば、安心感と集中力の両立が図りやすくなります。
行き止まりや密集のストレスを避ける工夫
人の流れがスムーズに行き来できない空間では、ちょっとした不便さが積み重なってストレスの要因になります。特に、動線が狭く、複数人が同時に通ることが難しい構成や、動きの導線上にデスクや備品が点在している場合は、利用者同士の接触や視線の交錯が頻発します。こうした状況は、会話のタイミングを見失わせたり、無意識の緊張感を生み出すことにつながります。設計の段階で、滞留しやすい場所や回遊性のない行き止まりがないかをチェックし、空間全体に自然な流れを持たせることが大切です。また、人が集まりやすい場所とそうでない場所を意識して配置を調整することで、密集による不快感を避け、余白を活かした快適なレイアウトが実現します。
設計ポイント3|心理的安全性を意識した配置
視線・音・明るさが与える影響
シェアオフィスにおける働きやすさは、物理的な設備だけでなく、心理的な快適さにも大きく左右されます。そのなかでも、他人の視線や周囲の音、光の加減といった要素は、利用者の気持ちに直接的な影響を与えます。たとえば、後方に通路がある席では、常に誰かの動きを気にする状態が続き、落ち着いて業務に集中しづらくなります。また、反響しやすい壁面構造や床材が使われていると、会話や操作音が拡散し、静けさを保つことが難しくなります。さらに、照明が強すぎたり、反対に暗すぎたりする環境では、長時間作業する際に目の負担やストレスが蓄積されやすくなります。心理的安全性を高めるためには、利用者の感じ方を踏まえて、こうした要素を意識的に整える必要があります。
区切り方ひとつで安心感が変わる
空間をどう仕切るかは、心理的な距離感に直結します。全面的に閉じられた個室だけが安心につながるわけではなく、視線が抜ける程度の軽い仕切りでも、不安や緊張を和らげる効果があります。特に、背中側のスペースが開けているレイアウトでは、不意に誰かが近づくことに警戒心を抱きやすくなるため、背面にパネルや棚を設置するだけで安心感が高まります。天井まで覆わずとも、視界の一部が遮られているだけで、集中力の維持につながるケースもあります。また、全体を仕切るのではなく、使用目的に応じて一部だけを区切ることで、閉塞感を生まずに心理的な保護を実現できます。空間の印象は、仕切り方によって柔軟に調整することが可能です。
利用者層に応じた柔軟な空間設計
心理的安全性の感じ方には個人差があるため、利用者の年齢層や職種、働き方のスタイルに応じて柔軟な設計が求められます。たとえば、ひとりで黙々と作業したい利用者には、囲まれ感のある席が落ち着きを与えます。一方で、頻繁に会話や打ち合わせを行う業務では、閉じられた空間よりも開放的でフラットなレイアウトの方が使いやすく感じられます。心理的安全性を高める設計は、物理的な遮蔽物だけでなく、座席の向きや間隔、素材の質感など、複数の要素が組み合わさって成立します。すべての利用者にとって一律の最適解を求めるのではなく、選択肢を持たせる構成が心理的な負担を減らすポイントになります。
設計ポイント4|継続運用を見据えた柔軟性
変更可能なレイアウトが管理コストを下げる
シェアオフィスは、一度設計して終わりの空間ではありません。利用者の増減や業務内容の変化に応じて、レイアウトを見直す場面が必ず訪れます。そのときに、構造的な制約が多い空間では、変更に時間やコストがかかりやすくなります。可動式のデスクや仕切り、キャスター付きの収納などを取り入れておくことで、再配置がしやすくなり、必要な修正も最小限で済みます。固定された設備が多い構成では、小さな改善にも大きな工事が必要になるため、継続的に使い続けるうえでの柔軟性が失われます。初期の段階から将来の変化を想定して設計しておくことが、長期的な視点でのコスト抑制につながります。
将来的な席数増減・用途変更に対応できる構成とは
シェアオフィスの利用形態は、時期や状況に応じて変わっていきます。特定の部署だけが増える、プロジェクト単位で一時的に人数が増えるなど、常に一定の条件で使われ続けるわけではありません。こうした変化に対応するには、エリアごとの可変性を持たせた構成が不可欠です。たとえば、パーティションの位置を動かすだけで席数を増やしたり、会議スペースを一時的に作業エリアに変えたりできる設計であれば、臨機応変な対応が可能になります。決め打ちのレイアウトでは、こうした対応力が乏しくなり、スペースが活かされなくなります。日々の運用を意識した構成が、使い勝手を大きく左右する要素になります。
「初期配置」よりも「変化への耐性」が鍵
空間づくりにおいて、設計当初の完成度だけを重視するのは危険です。むしろ重要なのは、状況の変化に対してどれだけスムーズに適応できるかという点です。仮に一度の設計で理想的な空間が実現できたとしても、使い方や人の流れが変われば、その理想も形を変えていきます。そこで必要になるのが「変化への耐性」です。設備やレイアウトに可動性があれば、都度の調整がしやすくなり、空間の持つ価値を維持できます。つまり、運用を続ける中で「何を変えられるか」を見据えておくことが、空間設計の質を決定づける大きなポイントになります。
まとめ|最適なレイアウトは“今”ではなく“運用”で決まる
空間が業務に与える影響を再認識する
シェアオフィスにおけるレイアウトは、単に美しいデザインや配置だけで評価できるものではありません。利用者の動きや業務内容、コミュニケーションの頻度によって、空間が持つ価値は変化します。目に見える完成形よりも、日々の運用においてどれだけ効率的かつ快適に機能しているかが、本当に優れた設計を判断する基準になります。
選定基準に「変化」と「共感」を加える視点
最適なレイアウトをつくるうえで重要なのは、初期設計だけでなく、変化に対応できる柔軟性を持たせることです。利用者のニーズやチーム構成の変化に応じて調整しやすい配置やゾーニングを意識すれば、オフィス全体の満足度が高まり、業務効率も向上します。また、利用者が居心地の良さを感じる視点、心理的な安全性に配慮した設計も欠かせません。これらの要素を組み合わせることで、長期にわたって快適かつ機能的なシェアオフィスが実現できます。
- CATEGORY
- コラム
- TAG



